会社経営をされている73歳の女性が来院されました。
「20年以上眠れないんです」とのご相談です。
ベッドに入ってもなかなか寝付けませんし、
ようやく眠れたと思ったら、2〜3時間で目が覚めてしまい、その後は朝まで眠れない状態が続いていました。
そのため常に疲労感があり、日中もつらいとのことでした。
睡眠薬は服用していましたが、「このまま飲み続けてよいのか不安」と感じておられました。
健康のための「1万5000歩」が不眠の引き金に?
お話を伺うと、患者様は非常に活動的で、健康のために毎朝愛犬と1万5,000歩ものウォーキングを欠かさないとのことでした。
しかし、実はここに大きな落とし穴がありました。
朝食を摂ることなく、運動することは、体内の糖を使い果たしてしまい、「低血糖状態」を招く原因となります。
体は下がった血糖値を無理やり上げようとして、アドレナリンなどの興奮ホルモンを分泌します。
すると心身が常に「戦うモード」の緊張状態になり、夜になっても脳が休まらず眠れなくなってしまうのです。
血液検査で見えてきた「隠れ低血糖」の正体
さらに食事内容を詳しく伺りますと、
朝食はパンとコーヒーのみ、
昼食はうどんやパスタといった小麦製品が中心で、
間食には和菓子とコーヒーを好まれていました。
血液検査の結果、食後ではないにもかかわらず、インスリンの値が「36」とかなりの高値を示していました。
これは、細胞がインスリンに対して鈍感になる「インスリン抵抗性」が起きているサインです。
細胞が糖をうまく取り込めないため、体は「もっとインスリンを出せ!」と過剰に分泌を続けます。
その結果、ある時、急に血糖値が下がりすぎてしまう「反応性低血糖」が起きてしまうのです。
眠れない原因は、この血糖値の乱高下による自律神経の乱れと考えられました。
薬に頼らず「体の中から整える」アプローチ
当院では、以下の食事・習慣の改善を提案しました。
1・運動前のエネルギー補給:
空腹でのウォーキングは避け、おにぎりとお味噌汁を食べてから散歩に出かけましょう。
2・主食の切り替え:
パンや麺類をやめ、血糖値が安定しやすい「ご飯とみそ汁」の定食スタイルに変えましょう。
3・「補食」の活用:
食事の間にゴルフボール大の一口おにぎりを取り入れ、血糖値を安定させましょう。
4・アミノ酸の形で摂取:
血液検査で低タンパク(アルブミン3.5)が認められました。
たんぱく質は睡眠に関わる神経伝達物質の材料となるため、不足すると睡眠の質に影響します。
消化吸収されやすい、お出汁やスープからアミノ酸を補給することを提案しました。
5・カフェインを避ける:
コーヒーに含まれるカフェインは交感神経を刺激し、眠りを妨げるため、コーヒーを一旦お休みすることを勧めました。
3週間後、20年間の悩みに終止符
実践からわずか3週間後、患者様は晴れやかな表情でこう報告してくださいました。
「 眠れるようになりました!
20年間も悩んでいた不眠が、嘘のようです。
食事がこれほど睡眠に関係しているとは思いもしませんでした。
特にコーヒーをやめた影響は大きかったと感じています。
夫も一緒に食事を変えたところ、夫婦揃って体調が良くなりました」
長年の不眠に対し「薬で脳を眠らせる」のではなく、「栄養で代謝を整える」ことで根本から解決した事例です。
日々の食事が、いかに私たちの心身を左右しているかを改めて教えてくれました。
「眠れない=睡眠薬」と考えるのが一般的ですが、実は「日中の血糖の変動」が夜の睡眠を左右しています。
長引く不眠にお悩みの方は、一度ご自身の「血糖値の動き」と「栄養状態」を見直してみませんか?
院長 野口 由美
医学博士(大阪大学)/放射線診断専門医/抗加齢医学会専門医
関西医科大学卒 関西医科大学内科、大阪大学放射線科、九州大学心療内科
日本メディカルホメオパシー学会認定医
大阪大学で医学博士を取得。
内科・心療内科・放射線科での臨床経験を重ねた後、クリニック千里の森を開設。
西洋医学に加え、分子整合栄養医学や伝統医学、補完代替医療を取り入れ、一人ひとりに最適な治療を行っている。
※ご本人の了解をいただき、掲載させていただいています。
趣旨をゆがめない程度に、年齢や性別などの背景を変えたり、
他の患者さんを組み合わせるなどして、実際の症例に変更を加えています。
また、理解しやすいよう、内容を単純にし、処方内容も一部に限定していることをご了承ください。
