健診で毎回、血清鉄低値を指摘されるという方から相談を受け、栄養療法を行った経過をご紹介します。
その通院中、将来の不安や家族の悩みを話されるようになり、バッチフラワーレメディを用いましたので、次回は、その経過をご紹介します。
血清鉄が低いとは
聡子さんは、38歳の会社員です。
この数年、会社の健診で、毎回、血清鉄が低いと指摘され続けています。
ずっと気になっていたのですが、血清鉄低値がどのくらい問題なのか、はたまた自分の数値は、病院を受診すべきレベルなのかどうかよくわからず、そのままにしていました。
検査結果をみますと、聡子さんの血清鉄は23と、たしかに低値です。
しかし、これだけでは鉄不足と判定することはできません。
血清鉄は血清中の鉄量を測定したもので、必ずしも体内の鉄量を反映するわけではないからです。
鉄欠乏であるかどうかは、貯蔵鉄の指標であるフェリチンを確認する必要があります。
次回、採血時には、フェリチンも検査していただくことになりました。
鉄不足の症状
検査結果をよく見てみますと、血清鉄以外にも気になる点が多々ありました。
鉄不足が疑われる所見がありますし、ビタミンB群の低下、たんぱく質の不足も認められます。
そのように説明しますと、とても驚いた表情で、こう話されました。
「健診の診察では、血清鉄以外に異常はないって言われましたよ。
貧血もないし、肝機能も正常って言われましたけど…」
そうですね。
一般的な検査結果の判定では問題はありません。
しかし、栄養医学的な観点からみると、栄養不足と判断されるのです。
ところで、困っている症状はないのでしょうか。
栄養素が不足すると、
「朝起きられない、やる気が出ない、疲れやすい、イライラする」
など、様々な症状がみられる場合が多いのです。
すると、聡子さんはよく聞いてくれました!といった表情で話し始めました。
「朝が苦手です。
なかなか起きられないし、それに朝は憂鬱です。
どうして朝が来るのだろうと思うくらいです。
朝食は食べません。
食欲もないし、そもそも食べる時間もないですし。
いつもぎりぎりまで寝てるから…。
朝はやる気もでません。
午後はましになるんですけど、夕方になるとまた体がだるくなって、集中力もなくなります。
休日は一日中、家にこもっています。
お昼近くまで寝てしまって…、そうなると出かけるのもおっくうになって…。
生理前になると、気持ちは落ち込むし、体はだるいし、頭痛もするし…、PMS(月経前症候群)だと思います。
少し前に、髪がすごく傷んでしまって、美容師さんに、これは切らなきゃだめだねって言われて、とても残念だったけど、長かった髪をバッサリ切りました。
最近、抜け毛が多くて気になっています」
聡子さんのさまざまな症状は、栄養素不足の方からよくお聞きすることばかりです。
ビタミンB群や鉄の不足状態のために、心身の不調を引き起こしているのです。
栄養療法開始
鉄やビタミンB群は、神経伝達物質の合成に必要不可欠な栄養素です。
これらが不足すると、神経伝達物質をうまく作ることができないため、「やる気が出ない、くよくよする、集中力が続かない」など、さまざまな精神症状が現れます。
また、鉄やビタミンB群は、体内のエネルギー代謝にも重要な働きをしています。
そのため、これらの栄養素が不足すると、「疲れやすい、寝ても疲れが取れない、朝起きられない」などの訴えが多くなります。
ビタミンB群は糖質を代謝する際に必要な栄養素です。
糖質を取りすぎると、多くのビタミンB群が糖質代謝に回ってしまい、その結果、大切な神経伝達物質合成に使うビタミンB群が不足してしまいます。
ビタミンB群を十分量、神経伝達物質の合成に回すことができるよう、糖質の取りすぎには注意が必要です。
また、糖質をとるときは、ビタミンB群も一緒に摂取するよう心掛けましょう。
生理のある女性は、毎月、月経血とともに鉄が失われてているため、鉄不足は深刻です。
鉄や亜鉛が不足していると、肌荒れしやすく、抜け毛が多くなります。
たんぱく質は筋肉を作るものと思っていませんか。
間違いではありませんが、たんぱく質をもとにして作られているのは、筋肉だけではありません。
骨や皮膚、髪の毛から、体内で働く酵素、ホルモンや感染から身を守る免疫抗体に至るまで、体の構成要素のほとんどすべてのものが、たんぱく質から作られているのです。
ですから、そもそも、十分量のたんぱく質がなければ、神経伝達物質をはじめ、酵素やホルモンの合成を始めることもできません。
たんぱく質をたくさんとることで、肌、髪など、さまざまな部分がよみがえり、体調の変化も感じられるでしょう。
聡子さんは栄養療法に興味を持たれ治療を始めることになりました。
毎日の食事では、たんぱく質を積極的にとり、職場では間食を控え、糖質でない間食、たとえば、ナッツやチーズなどをとってみることにしました。
半年後、1年後の再診
半年後再診:早起きしてウォーキング
「朝起きられるようになりました。
それに、すごく活動的になりました。
毎朝早く起きてウォーキングするようになって、一日一万歩、歩くようにしています」
1年後再診:イライラ、クヨクヨが減りました
「抜け毛が減ってきたと思います。
以前は、シャンプー後の抜け毛が多くて、シャンプーやコンディショナーがあっていないのかと思って、いろいろ試したりしたけど、そういうことじゃなかったんですね。
朝起きやすくなったので、休日にいろいろな用事をいれやすくなりました。
日曜の朝に、ピラティスを始めました。
その後、友達と会ったりもできるし、休日が充実しているなぁと思います。
以前は、休日、昼頃まで寝ていたので、あっという間に一日が終わってしまって、すごく自己嫌悪に陥っていました。
肌もきれいになったと思います。
以前は、触るとざらざらしていたのが、今はつるつるしている。
先生が、栄養療法始めると、肌がつるつるになると言われていて、内心、疑心暗鬼だったんですけど、本当だって思いました。
会社でも、いらいらすることが減ったと思います。
以前は、小さなことをくよくよ考え込んだりしていました。
今は、解決法を考えて、すぐに上司に相談するようになったし、そもそも、考えてもどうしようもないことなら、問題からできるだけ離れるようにして、気にしないことにしています。
いろんなところで、栄養療法の効果を感じています」
女性は鉄分が不足しています
ここで、体内での、鉄分の代謝や働きについてみてみましょう。
鉄分は主に食べ物から摂取し、十二指腸で吸収されます。
胃酸分泌が低下していると、鉄分の吸収は著しく低下します。
胃の手術後や胃炎、胃酸分泌を抑える胃薬の服用により、胃酸が低下していると、鉄分の吸収は悪化します。
成人の体内の総鉄量は3から5gで、体内鉄の60%はヘモグロビンを作るための鉄として血液中に存在しています。
残りの40%の鉄は、肝臓は脾臓などに貯蔵鉄として蓄えられます。
何らかの理由でヘモグロビンを作る鉄が不足すると、まず、貯蔵鉄から使われます。
それでも足りないときは、血清中の鉄が使われ、さらに足りなくなると組織鉄まで使われるようになります。
体内の鉄が不足すると、ヘモグロビンをうまく作ることができなくなり、これが鉄欠乏性貧血という状態です。
鉄は吸収率が低く、食べ物に含まれる鉄のうち体内に吸収されるのは10%以下です。
一方体外に排出される鉄の量も少なく、一日に1㎎です。
つまり、鉄は体内で再利用されているのです。
それでも、鉄不足になる原因として、以下の三つが考えられます。
毎日の鉄摂取量が極端に不足する。
子宮筋腫などで月経過多の状態、もしくは、消化管などから慢性的に出血が続いている。
胃の手術後で鉄の吸収がうまくできない。
女性は、毎月、月経により血液が失われるため、鉄も同時に失われています。
妊娠中、授乳中は、よりいっそう鉄分が必要になります。
母体の鉄は胎盤を通じて胎児に移行し、胎児の成長に使われます。
また、母乳にも鉄が含まれていますので、授乳によっても鉄は失われます。
そもそも、女性の貯蔵鉄量は少ないこともわかっています。
男性の貯蔵鉄は1gなのに対し、女性は0.3~0.5gと、女性はかなり少ないことが分かります。
このように、女性はもともと、体内の鉄分量が少ないのですが、そのうえダイエットするなどして、鉄分摂取量は多くありません。
そのうえ月経で失われ、さらに妊娠、授乳で失われるなどして、多くの女性は鉄不足の危険にさらされているのです。
鉄欠乏性貧血を指摘されたら内科を受診しましょう
聡子さんは栄養療法上の鉄不足が考えられましたが、医学的に貧血と診断されたわけではありませんでした。
しかし、もしあなたが、健診などで、貧血を指摘されたり、貧血の進行がみられる場合には、内科を受診することをお勧めします。
貧血を指摘されたら、胃や大腸など消化管の検査が必要です。
消化管の病変から微量の出血が続いている可能性があるからです。
消化管に潰瘍がないか、炎症や腫瘍がないかどうかを調べます。
もし、検査で異常が見つかった場合は、病気の治療が先決です。
女性でしたら、婦人科受診も必要です。
子宮筋腫や腫瘍など、子宮や卵巣の病気によって、月経血が非常に多くなっている場合があるためです。
婦人科の病気が明らかになった場合には、治療によって貧血の改善が見込めます。
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産後うつには鉄分が必要
※ご本人の了解をいただき、掲載させていただいています。
趣旨をゆがめない程度に、年齢や性別などの背景を変えたり、
他の患者さんを組み合わせるなどして、実際の症例に変更を加えています。
また、理解しやすいよう、内容を単純にし、処方内容も一部に限定していることをご了承ください。
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