発達障害で治療中という女子中学生が来院されました。
中学入学後から、急に、ひどい体調不良に陥り悩んでいると言われます。
「朝起き上がることもできず、毎日しんどくてたまらない」
という娘さんをみて、なんとかしてあげたいと、お母様がいろいろ調べられ、栄養療法を試したいと来院されました。
今回は、発達障害で治療中の中学生に行った栄養療法について解説します。
忘れ物が多い
お母さんが13歳の娘さんを連れて来院されました。
「小さいころからぼーっとしている子供でした。
聞こえているのか、いないのか、声をかけても反応はないですし…。
食事中も、よく箸を落としたりするんです。
小学校に入ると、忘れ物がすごく多くて、
前日に、『忘れ物ない?』って何度言っても、何かしら忘れているんですね。
学校では、いつもみんなとちょっとテンポがずれていて、
何をやっても、どんくさいなぁって感じなんです。
勉強も苦手で、成績も振るいませんでした。
中学に上がっても、忘れものは続きました。
毎日、なにかしら忘れ物があるんです。
親に渡すたいせつなプリントも出し忘れてたりするんですよ。
それで、私もいろいろ本を読んだりして、もしかしてって思って、病院を受診したんですね。
そしたらADHDって言われました。
薬もだされたんですけど、効果はどうなんでしょうね、よくわからないですね。
だいたい、そもそも、ADHDって薬でどうにかなるようなものじゃないって気がしたんです。
それでいろいろ本を読んで、栄養療法を試してみようって思ったんです」
中学入学後、体調不良
「小学校のころから、朝が苦手で、なかなか起きられなかったのですが、
中学に入学してから、いっそう朝が弱くなって、ほんとうに起きられなくなってしまったんですよ。
そのうえ、食欲がなくなって、めっきり食べなくなったんです。
そしたら、ふらついたりするようになって、体調ものすごく悪そうです。
朝はますます起きられなくなりますし、けだるくて、もうどうしようもない感じで、
見ていてほんとうにかわいそうになるくらいで、これはどうにかしてあげないとって思いました。
しんどそうでなにも食べられないって言うので、最近は、ポカリスエットを飲ませています」
偏食もひどくて
「食事は、小さい頃から小食でした。
偏食が強くて、肉、卵、魚食べないし…。
納豆や豆腐が好きなんです。
家族みんなご飯が好きなので、食事内容はご飯メインになりがちです。
ごはんと漬物とか、卵かけごはんみたいな食事も結構あります。
そういえば、私が妊娠中、鉄欠乏と言われて、鉄剤を飲んでいました。
発達障害の本をいろいろ読んで、この子にあったサプリメントを選びたいと思って、今日は血液検査してもらおうと思って来ました」
そう話しながら、娘さんと顔を見合わせています。
それまで、落ち着かない様子でずっと体を動かしていた娘さんは、大きくうなずきました。
成長期に必要な栄養素が足りない
採血をした後、今日、うかがったお話から、わかることなどをお伝えします。
朝起きられない、体がだるくてしようがないというのは、エネルギー不足が考えられます。
エネルギーは、酸素と糖を材料にして細胞のなかで作られています。
血糖がいつも正常範囲内におさまっているといいのですが、
血糖値が低いと、糖が足りないのでエネルギーを作ることができません。
一方、酸素は赤血球が運んできますが、鉄が不足していると、酸素を十分運ぶことができません。
お母様は妊娠中、鉄欠乏と言われたということですが、お母さんが鉄不足だと、胎児も鉄不足になりやすいんですね。
もともと、娘さんも鉄不足気味だったのかもしれません。
そのうえ小食で、偏食気味だったということですので、さらに鉄は不足していたかもですね。
そこに、初潮が始まり、毎月鉄が失われることで、ますます鉄欠乏が進んで、今回の体調不良につながった可能性があります。
成長期に入って、いろいろな栄養素がたくさん必要な時期です。
ところが、食事からもなかなか栄養が入ってこない、消化吸収もできなくて栄養素が不足するという状態になり、需要と供給のバランスが大きく崩れてしまったことで、
急に、朝起きられなくなったり、だるくてしょうがないという状態に陥ってしまったのではないでしょうか。
参考記事です。
体調不良のときのポカリスエットはいい?わるい?
それから、体調悪い時にポカリスエットは実はよくないんですね。
急激に血糖値を上げてしまい、その後、急降下してしまうので、かえって、体調を悪くします。
小さいおにぎりとか、お味噌汁、スープなど、消化しやすくて、血糖値を緩やかに上げるようなものがいいですね。
ご飯と漬物という食事も工夫していただけるといいと思います。
ごはんとお味噌汁やスープ、それから主菜、副菜というような食事ですね。
ポイントは、毎食、たんぱく質をとることです。
間食にもたんぱく質が含まれるもの、お味噌汁、スープ、ゆで卵などをとれるといいと思います。
持参された一般的な血液検査から栄養状態を解析
持ってきていただいた、通院中の病院での血液検査を見せていただきます。
ビタミンB群、葉酸、ナイアシンの不足がみられます。
たんぱく質合成も不足しています。
食べる量も足りていないのでしょうが、胃酸や消化酵素の不足による消化吸収不十分な可能性が高いです。
胃酸分泌不足に対しては、食事の前に、レモンやリンゴ酢のお水をとる、梅干しをとるなどを勧めます。
たんぱく質もできるだけとっていただくのがいいですが、消化吸収が難しいかもしれませんので、スープや味噌汁がおすすめです。
また、お肉はひき肉をつかうという方法もありますね。
今回の採血結果が出る前に、必要なサプリメントがあれば、始めたいというご希望です。
ビタミンB群、ヘム鉄を始めることになりました。
参考記事です。
3週間後再診:体調良くなってきました
再診には、お母様が来院されました。
「サプリメントを始めたら、朝、すっきり起きてくるようになってびっくりしています。
日に日に、元気になっている感じで、サプリメントを始めてほんとによかったって思います。
子供が元気になったので、私も始めようかと思っているくらいです」
すでに栄養療法の効果を感じていただいているということで、私もうれしく思います。
お食事も変えていただいたからではないでしょうか?
「たしかに、そうですね。
先生に言われたので、がんばって毎日作っています。
そしたら、子供も、よろこんで食べてくれるようになりました」
栄養療法の血液検査結果を説明
初診時に行った、栄養療法のための詳細な血液検査の結果を説明していきましょう。
たんぱく質の不足があり、アルブミンが低いことによる、血液濃縮がおこっているため、検査結果の値をそのまま判断することはできず、すべての項目を総合的に見ていきます。
たんぱく質やビタミンB群の不足がみられることは、前回、持参された結果からもお話ししています。
そのほか、交感神経緊張状態を示す結果がでており、ミネラル不足もみられます。
緊張状態では消化吸収不良に
交感神経緊張を示す所見がみられます。
このような状態では、胃腸の動きが悪くなるため、消化吸収がうまく働きません。
学校では、かなり緊張しておられるのではないでしょうか。
たびたび忘れ物があるなどミスが重なると、注意されたり、怒られたりすることがあるかもしれません。
すると常に、失敗するのではないかとびくびくしたり、怒られるのではないかと緊張してしまいがちです。
家では、できるだけリラックスできる工夫が必要かもしれません。
また、失敗することがあったとしても、あなたのことが大好きなのよって、何度も繰り返し声掛けしましょう。
背中をポンポンとなでてあげたりすると安心できるかと思います。
ミネラル不足
フェリチンが低値で、鉄不足がみられます。
食事からの摂取が少ないことのほか、胃酸低下による吸収低下が考えられます。
ALPの値は、成長期の子供の場合、かなり高値をとるはずですが、それほど高値でないことを見ると、亜鉛とマグネシウムの不足が考えられます。
亜鉛の値も低いので、今回は、亜鉛とマグネシウムをとっていただくとよいでしょう。
お母様は熱心にメモをとっておられます。
「この数週間だけでもかなりよくなったので、しばらく続けていきたいと思います」
また、数か月後、採血して、経過をみていくことになりました。
発達障害の子供の兄弟姉妹にも心を配る
女の子には、3歳下の妹さんががいらっしゃいます。
女の子をサポートしてあげるだけでなく、妹さんをサポートしてあげることも同じくらい大切です。
いつもみんながお姉さんに注目していて、妹さんの方は目立たないようにしていることがあります。
お姉さんに手がかかるので、自分は、両親の迷惑になるようなことをしてはいけないと思い、いつもとてもいい子にしていることも多いです。
これらの行動は、こどもにとってはとてもストレスです。
お姉さんと同様に、あなたのことをとても大切に思っていることが伝わるように、気を配ってあげる必要があります。
ときには、妹さんとお母さんのふたりでお出かけしたりするのもいいでしょう。
参考記事です。
※ご本人の了解をいただき、掲載させていただいています。
趣旨をゆがめない程度に、年齢や性別などの背景を変えたり、
他の患者さんを組み合わせるなどして、実際の症例に変更を加えています。
また、理解しやすいよう、内容を単純にし、処方内容も一部に限定していることをご了承ください。
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