副腎疲労のかたのなかには、「物音が気になって眠れない」という方がいらっしゃいます。
物音のために不眠に陥ると、さらに副腎疲労が悪化するため、深刻な問題です。
また、夜間だけでなく、昼間も物音が気になったり、光がまぶしくてつらいなどの症状に悩まされるかたもいらっしゃいます。
これらの悩みはストレスとなり、さらに副腎疲労の悪化をもたらします。
今回は、体調不良が続くうち、物音に過敏になり、さらに光がまぶしくて日常生活に支障をきたすようになった女性のお話を紹介します。
加えて、副腎疲労の方が聴覚過敏になる理由や、眩しく感じるメカニズムを解説し、副腎疲労の治療についてお話しします。
症例紹介
春奈さんは、30代の女性です。
瘦せ型の小柄な方で、真っ黒なサングラスをかけて来院されました。
入室後も、サングラスを外される様子もありません。
お部屋の照明がまぶしいのかなと思い、
「照明を暗くしたほうがいいですか?」
と尋ねたのですが、サングラスをしているから大丈夫と言われます。
サングラスをかけたまま、診察が始まりました。
副腎疲労ではないでしょうか
この数年、体がだるくて、起き上がることもままならず、横になっていることが多いと言われます。
「いくつもの病院を受診したのですが、どこにも異常はないと言われるのです。
でも一向によくなりません。
困って、ネットでいろいろ調べるうち、副腎疲労じゃないのかなと思ったんです。
それで、ネットでよいとされている、副腎疲労のためのサプリメントをたくさん買いこみました。
また、よいと言われている食事法もいろいろ試しています。
糖質は取らない方がいいというのでご飯をやめました。
肉はだめだというので、肉もやめました。
小麦もよくないと知り、グルテンフリーを始めました。
野菜をたくさんとった方がいいというので、朝はスムージー、昼は野菜と豆腐が中心です。
夜は食べない方がいいというので、夕食は取らないようにしています。
こんなに食事を頑張っているのですが、一向に良くなる気配がありません」
物音が気になって眠れません
「そのうち、マンションの部屋の物音に悩まされるようになったんです。
どこから聞こえてくるのか、ドンドンという音が気になって眠れなくなってしまいました。
騒音のために眠れないので、困り果て、引っ越しを繰り返しました。
今回は、最上階の部屋を契約することができたので、これで騒音はないはずって安心していたのですが、結局、今回も、夜中の物音で眠れなくなってしまって。
物音は、ドンドンする音だったり、かすかなくりかえす物音だったりします。
管理会社にも相談し、夜間、大きな音を立てないようにと掲示をしてもらったりしたのですが、いっこうに状況は変わりません。
夜寝ようとすると、音が気になって寝られず、不眠状態が続いています。
自分に問題があるのだろうかと、耳鼻科も受診しましたが、異常はないと言われました」
光がまぶしい
「そのうち、昼間に外出すると、外がとてもまぶしくて、目を開けていられなくなったんです。
サングラスをかけると少しマシになることがわかり、それ以来、手放せなくなりました。
眼科も受診したのですが、どこも問題はないといわれます。
処方された点眼液を使っても、いっこうに良くなりません。
そのうち、外だけでなく、家の中でも、照明をまぶしく感じるようになり、家の中でもサングラスをかけるようになりました」
体調が悪くて起き上がれないだけでなく、音や光に悩まされるようになり、つらくてたまらないと言われます。
副腎疲労で聴覚過敏になる理由
横になっていることが多いこと、特に、朝は起きられないことなどから、春奈さんの見立て通り、副腎疲労の可能性があるでしょう。
音が気になるのも、副腎疲労のためかもしれません。
多くの人が話す中でも、必要な声を聞きとることができるなど、耳はとても繊細な仕事をしています。
それだけ、耳は、多くのエネルギーを必要としているのです。
ところが、副腎疲労など、体内のエネルギーが低下しているときは、生命維持に必要な臓器に優先的にエネルギーを供給するため、耳へのエネルギー供給は後回しとなってしまいます。
耳には、その繊細な仕事を可能にするだけの十分なエネルギーが回ってきません。
そのため、通常であれば、気にすることのない音を拾ってしまい、それが騒音と感じてしまうのです。
そうなると、騒音がからだとこころを疲労させ、さらに副腎疲労が進みます。
そのうえ、騒音のために眠れないことで疲労が積み重なり、さらに音が気になるという、悪循環に入ってしまうのです。
副腎疲労で光を眩しく感じる理由
騒音と同様に、眩しさを感じるのも、副腎疲労が原因である可能性があるでしょう。
疲れがたまっているとき、光をまぶしく感じた経験はないでしょうか。
ひとは疲労状態にあるとき、瞳孔の調整がうまくできなくなることがあります。
その結果、入ってくる光の量を調整することができず、まぶしく感じるのです。
目に入る光の量を調節しているのは瞳孔です。
瞳孔を開くと、光をたくさん取り入れますし、
光がまぶしいと感じたら、瞳孔が閉じ、入ってくる光の量を調整します。
ところが、瞳孔を閉じる筋肉がうまく働かないと、目に必要以上の光が入り込み、まぶしさを感じます。
疲労が続いているときや、副腎疲労では、この瞳孔を閉じる筋肉の動きが鈍り、瞳孔が閉じにくくなるため、まぶしく感じるのです。
光がまぶしくてつらいときは、照明の明るさを落とし、サングラスをかけるなどして、目から入る光の量を減らす工夫をしてみるとよいでしょう。
副腎疲労の治療
このように、騒音に悩まされていることも、まぶしくてつらいことも、副腎疲労など、慢性的な疲れが原因である場合があります。
早めにお休みして、しっかり睡眠をとることと同時に、疲労を回復させる食事をとることも必要です。
春奈さんは、副腎疲労の治療を始めたのですが、一向に良くならず困っておられます。
まず、女性の独特な食事をみてみましょう。
複数の食事療法を組み合わせると食べられるものがなくなる
春奈さんのように、さまざまな食事法を組み合わせると、最終的には食べるものがなくなってしまう、という悲劇が起きます。
肉はだめ、炭水化物もだめ、あれもだめ、これもだめとするうち、野菜と豆腐しか食べられるものがなくなってしまい、その結果、一日に大量の野菜を食べることになってしまいます。
いつも同じ種類の野菜を、毎日大量にとることは、アレルギーやリーキーガットをおこすきっかけとなります。
食事は、ごはん、汁物、主菜、副菜と普通のお食事に変え、さまざまな食材をローテーションしながらとるよう工夫してみましょう。
もちろん、肉をたくさん食べるのは控えた方がいいですが、肉からしか得られない栄養素もありますので、全く食べないのも問題です。
肉が嫌いでなければ、適量を摂ったほうがいいでしょう。
よい油をとることも必要です。
ω3系の脂肪酸を含んだ、亜麻仁油、えごま油を用いたり、青魚をとるとよいでしょう。
低血糖は副腎疲労を悪化させる
夕食を食べないと、朝まで、長時間にわたって絶食の時間が続いてしまい、この間、低血糖になっている可能性が高いです。
絶食時間をとるといいのは、筋肉が充分あり、肝臓にグリコーゲンを十分蓄えている人です。
ある人にいいからと言って、すべての人に、その食事法が当てはまるかどうかは別問題。
春奈さんのように、やせ形の小柄な人で、筋肉もあまりついていないひとは、絶食をすると、てきめんに低血糖に陥り、それがさらに副腎疲労を悪化させます。
血糖値をいつも一定の範囲内に保つことはとても重要です。
かならず、三食とも、ご飯を一膳しっかりとりましょう。
食後2時間もすると、血糖値が下がってきますので、下がってしまう前に補食をとります。
蒸したサツマイモ、かぼちゃ、ゆで卵、ちいさなおにぎりやスープなどを用意しておいて、こまめに補食をとりましょう。
低血糖については
疲れやすいひとが知っておきたい低血糖の話
を参照してください。
副腎疲労のサプリメント
副腎機能を回復させ、コルチゾールを十分に分泌できるようにするためには、ホルモンの材料である栄養素が必要です。
コルチゾールを合成するには、たん白質・ビタミンC・ビタミンB群・亜鉛・マグネシウムなどが必要です。
副腎疲労のかたは、長期間のストレスによって、消化吸収能力が低下しているうえ、ビタミン、ミネラルが多く消費され、栄養素不足の状態に陥っています。
そのため、これらの栄養素を、治療用サプリメントを用いて十分に補給していく必要があります。
まず、食事から変えていき、検査で栄養状態などを確認しながら、副腎疲労の治療を進めていきます。
疲労状態が改善してくると、音や光にも自然に対応でき、気にならないようになってくるでしょう。
※関連記事です。
※ご本人の了解をいただき、掲載させていただいています。
趣旨をゆがめない程度に、年齢や性別などの背景を変えたり、
他の患者さんを組み合わせるなどして、実際の症例に変更を加えています。
また、理解しやすいよう、内容を単純にし、処方内容も一部に限定していることをご了承ください。
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