5年前、乳がんで手術を受けたという、42歳の主婦の方が来院されました。
手術後、放射線治療と化学療法を受け、その後、開始したホルモン治療も、もうすぐ終了です。
今後は、無治療になるため、自分でもなにかできることはないかと、来院されました。
診療の最後に、食事の話になりました。
「食事に気をつけているんですけど、
なんだかうまくいかなくなっている気がして、
何をどう食べたらいいのか、わからなくなってきてしまったんです」
「病気がわかったときは、
どうして、乳がんになったんだろうとか、
なにがいけなかったのだろうとか、いろいろ考えました。
私の食生活がよくなかったのかなと思って、本を読んで、食事を変えたんです」
「どの本にも、パンやパスタをやめて、玄米にするように書かれています。
それで、大好きだったパンをやめました。
パンやお菓子を作るのが趣味だったんですけど、それもやめました」
「乳製品が大好きなんです。
でも、乳がんの人は、乳製品はだめらしくて、
ミルクも、ヨーグルトも、チーズもバターもやめました」
「肉も控えた方がいいというので、肉はやめて、
大豆製品からタンパク質をとることにして…、
だから、毎日、豆腐、納豆、みそ汁ですよね。
それから、とにかく野菜をたくさん食べます。
乳がんには、とくに根菜類がいいって聞きました」
よく勉強されています。
本を読むだけでなく、実際に実践されていて、頭が下がります。
「食事は完璧なはずだったんですけど…、
それが…、どんどん太ってきてしまったんです。
乳がんは、太ったらだめでしょ。
それで、何をどう食べたらいいのか、わからなくなってきたんです」
「そしたら、糖質制限のことを聞いて…、それで思いついたんです。
お米は食べていいと思っていたから、もしかすると、ご飯を食べすぎていたのかもって。
それで、今度は糖質を減らすことにしたんです」
「でも、それが混乱の始まりでした。
糖質制限では、チーズ、ナッツ、肉は食べてもいいけど、乳がんの人はだめじゃないですか。
乳がんの人がとるべき食事と、糖質制限を合わせたら、食べるものがなくなってしまって…。
それで、ますます何を食べていいのか、わからなくなってしまいました」
そうですね。
それぞれの食事療法自体は、問題ないはずなのに、
うまくいかなかったりすると、何をどう食べたらいいのか、わからなくなってしまいます。
お話をよくお聞きしますと、この方の場合は、
ご飯は食べてもいいものとして、多くとりすぎる傾向にあったようです。
また、食事が物足りなかったのか、食後に和菓子を食べておられました。
(お菓子は原則だめだけど、食べるなら和菓子を)
と書かれていたので、和菓子なら大丈夫と思われていたようです。
やや糖質に偏った食事になっている一方、タンパク質は不足気味でした。
また、野菜は根菜類を中心にたくさんとっておられました。
根菜類は確かに体にいいのですが、根菜類ばかりに偏ることなく、
葉野菜も取り入れ、適度な量を食べましょう。
人の体の細胞膜は脂質を多く含んでいて、
しっかりした細胞膜を作るためには、適度の油が必要です。
油脂の摂取を制限されていたようなので、もっと取り入れてもいいことをお話ししました。
その際、サラダ油やマーガリン、市販のドレッシングはとらないようにします。
栄養療法について、よく理解されていましたので、
少し偏っている点を指摘しただけで、頭の中が整理され、
これから、どのような食事をするといいのか、なんとなくつかめたようです。
また、今までの食事も、必ずしも間違っていたわけではないとわかり、
自信を持たれたご様子です。
「あれも、これも食べてはだめと思って、必死になっていた気がします。
一番大切なのは、バランスなんですね。
なんだか、気が楽になりました。
いろんな献立を作ってみようと思います。
1か月、トライしてみて、また相談しますね」
肩の力が抜けたような、ほっとした表情で帰宅されました。
次回、どのようなお食事をされ、体調がどのように変わったのか、
お話をお聞きするのが楽しみです。
※ご本人の了解をいただき、掲載させていただいています。
趣旨をゆがめない程度に、年齢や性別などの背景を変えたり、
他の患者さんを組み合わせるなどして、実際の症例に変更を加えています。
また、理解しやすいよう、内容を単純にし、処方内容も一部に限定していることをご了承ください。
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