ひとは睡眠をとることで、脳と体を休めています。
特に、寝入ってから3時間の間に深い眠りに入ることで、脳もからだも休ませることができ、「ぐっすり寝た」という熟睡感を得ているのです。
睡眠の重要性は、休むことだけではありません。
寝入って2-3時間後に分泌される成長ホルモンは、細胞の修復や疲労回復に重要な役目を果たします。
原因不明の体調不良の原因が、実は睡眠不足だったという症例も経験しています。
今回は、より良い睡眠をとるために、生活の中でできる、8つのポイントをお伝えします。
体内リズムを整える
朝日を浴びる
夜、熟睡するためには、朝の行動が重要になります。
そのひとつが、朝日を浴びることです。
朝起きたら、カーテンを開け、日光を取り入れます。
また、少しの時間でも、外出して、太陽の光を受けましょう。
朝日を浴びて目覚めることが、夜、熟睡することにつながるのです。
これは、どういうことでしょう?
ヒトの体は、朝、強い光を受けることで、体内時計がリセットされ、その15-16時間後に、眠くなるようにできています。
また、夜になって暗くなり、目の網膜が受ける光情報が消えることによって、ヒトは眠くなります。
ですから、就寝前には、ブルーライトを発するスマートフォンを避けたほうがいいのです。
朝は、太陽の光を十分に受け、日中は活動的に行動し、夜になったら、部屋の照明を落とす。
これが、ぐっすり眠るためのポイントです。
朝食にたんぱく質をとる
朝、強い光を受けることに加え、朝食をとることによっても、体内時計はリセットされます。
体内時計は、光だけでなく、食事の影響も受けているのです。
前日の夕食から朝食までの、絶食時間が長いことも、体内時計をリセットするために、重要なポイントになります。
「寝る直前に食べない方がいい」とよく言われますが、就寝前の食事は、睡眠や消化に直接影響するだけでなく、体内時計にも影響しているのです。
朝食では、大豆製品や卵などのたんぱく質をとることをお勧めしています。
睡眠ホルモンであるメラトニンは、日中、体内で合成されるセロトニンを材料としています。
朝食で、セロトニンの材料となるトリプトファンをとることで、充分なセロトニンを生成させることができ、これが夜間のメラトニン分泌につながるのです。
トリプトファンが豊富な食べ物は、豆腐、納豆などの大豆製品や、乳製品、卵、ナッツ、バナナなどがあげられます。
就寝時間を決める
できれば、その日のうちに寝る、つまり12時までに寝るようにしたいものです。
今まで午前1時に寝ていたのであれば、午前0時までに寝るのですから、帰宅してからのスケジュールを、早めなくてはなりません。
帰宅後の時間の使い方を振り返り、早めに切り上げる作業や、時間を削るべき習慣がないかを見極めます。
こうして、毎日同じ時間に寝ることができるように調整してみましょう。
これらを習慣にすることができれば、自然に12時までに寝ることができますし、体調がよくなったと気づくと、なおいっそう、早寝の習慣が身につくでしょう。
寝る前ルーティーン
スマートフォンを閉じる
就寝時間が遅くなる理由としてよくあがるのが、スマホを見続けてしまうということです。
「ベッドの中に入ってからも、なんとなくスマホを見てしまい、気が付いたら午前一時を回ってた!」
という声、よく耳にします。
テレビやスマートフォン、パソコンなどから発せられるブルーライトは睡眠を妨げます。
就寝1時間前からは、これらを使わないようにしましょう。
スマートフォンやタブレットでの作業は何時までと決めたら、その時間にアラームをセットし、アラームが鳴ったらすぐにスマホやタブレットを閉じます。
継続することで、次第に習慣となり、苦もなく続けることできるようになります。
難しいと感じるのは、最初だけです。
ぜひトライしてみてください。
間接照明を利用する
就寝前に、明るい蛍光灯のもとにいることもよくありません。
就寝の1時間前になったら、蛍光灯を消します。
白熱電球のような、暖色系の光を用いた間接照明を使うなどして、照度を落とした、お部屋の環境を整えましょう。
お休み前に、ランプなどの明かりで、落ち着いた照明にすると、心も体も自然に、リラックスモードに入っていきます。
お湯に浸かる
入浴も睡眠の質を上げるために大切です。
寝る1時間前までに、入浴を済ませましょう。
お風呂では、必ずお湯につかります。
お風呂の温度は、個人の好みもありますが、熱すぎるお風呂は交感神経を刺激して、覚醒させてしまいますので、40度程度に設定するのが良いでしょう。
熱すぎないお風呂に、10分から15分間、ゆったりとつかります。
ぬるめのお湯につかることで、副交感神経優位となり、眠りに入りやすくなります。
お湯につかっている間、簡単なストレッチをしたり、ふくらはぎや足裏のマッサージをしてもいいと思います。
入浴により上昇した深部体温が、お風呂上りに下がると自然な眠気がおこります。
そのタイミングで就寝することで、熟睡することができるのです。
体調不良で入浴できないときは、手浴、足浴がおすすめです。
手浴とは、手首までお湯に浸かる方法、足浴は、足首やひざ下までお湯に浸かる方法です。
手足浴であっても全身の血流を高め、リラックス効果をもたらします。
介護や看護の現場でも用いられており、入眠を促し、睡眠状況の改善をもたらすと報告されています。
ストレッチ
ストレッチは筋肉の緊張をほぐし、血流を改善します。
副交感神経優位となるため、リラックスモードに入りやすく、自然な眠気につながります。
ストレッチの方法は、「首や肩を回す」、「仰向けに寝て、両手足を伸ばし、背伸びをする」といった簡単なものでも効果があります。
ぜひ習慣に取り入れてみてください。
私は、ヨガを体験した日の夜、とても熟睡できたという経験があります。
習慣となった今では、ヨガの日は熟睡できるかというと、そういうわけでもないみたいです。
でも、ヨガ、続いています。
ヨガの後はいつも、言葉にできない幸福感につつまれるんですよね。
私のまわりには、そんなこと言う人はいないので、こんなことを感じているのは、私だけかもしれません。
夜の激しい運動は、交感神経優位となり、眠りを妨げますので、日中に行うことをお勧めします。
寝る前のお酒は睡眠の質を下げる
日本では3割以上の方が、睡眠薬代わりにお酒を飲んでいるという統計が出ています。
実は、飲酒により、寝つきはよくなりますが、レム睡眠が減少し、睡眠の質が低下することがわかっています。
寝つきが悪くても、寝酒は避けた方がいいのです。
また、就寝前の喫煙や、カフェイン摂取を避けることも重要です。
タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があり、喫煙本数が多いほど、不眠の割合が高いと言われています。
ニコチンは体内で約一時間ほど作用するため、寝る一時間前の喫煙は避けるべきです。
また、睡眠途中で目が覚めてしまったときの喫煙もよくありません。
カフェインの覚せい作用と利尿作用もよく知られています。
カフェインは、摂取して30分~1時間でピークとなり、3-5時間でピーク時の半分になります。
夕食後のコーヒー、紅茶、緑茶などは、なるべく控えた方がいいでしょう。
気を付けたいのは、ドリンク剤、栄養ドリンクです。
これらには、意外と多くのカフェインが含まれているので注意が必要です。
最適な睡眠時間
何時間眠るとベストなのでしょう。
これは、個人的な要因が大きいため、何時間眠るとよいという絶対的な基準はありません。
睡眠が充分であるかどうかは、日中しっかり覚醒して過ごせるかどうかが目安になります。
アメリカで行われた、睡眠時間についての大規模調査では、睡眠時間が7時間の人が最も死亡率が低く、長寿であるという結果が出ています。
一方、8時間を超える睡眠時間の人は死亡リスクが上昇するという結果です。
睡眠時間は年齢によっても異なります。
7-8時間ぐっすり眠れるのは、10-20代までで、以降は年々必要な睡眠時間は減っていき、60歳で6時間半ほどになり、80代になると6時間を切ると言われています。
加齢とともに必要な睡眠時間は少なくなり、睡眠も浅くなります。
高齢者が早寝早起きになるのも、体内時計の加齢変化によるものです。
若いころにくらべて眠れなくなった、すぐ目が覚めると感じておられる方もいらっしゃるかもしれません。
加齢に伴い、睡眠は変化しています。
睡眠障害の病気は受診が必要です
日中、「眠くてたまらない」、「睡魔に襲われる」などが続くのであれば、睡眠時間が足りない、熟睡できていない場合が考えられますので、睡眠時間を確保し、睡眠の質をあげるために、上記にあげた工夫を試していただきたいと思います。
しかし、それでも眠くて仕方のない場合は、睡眠時無呼吸症候群などの病気の可能性があり、受診が必要です。
不真面目なわけではなく、一生懸命やろうとしているのだけれど、気が付いたら、会社で爆睡している、こういう方は病気が原因かもしれません。
ナルコレプシーという、睡眠障害の病気も考えられます。
昼間に耐えがたい眠気に襲われる、仕事中、学校の授業中でも、緊張するようなシチュエーションであっても眠気がおそってくるのが特徴です。
しかも、一日に数回、数時間おきに起こるため、対処が難しいのです。
以前、若い女性の方から、
「会社で仕事中に、寝込んでしまうんです。
寝ていると、上司に𠮟られます。
毎日、ちゃんと寝ているのに、日中、気が付いたら、机に突っ伏して寝込んでいるんです。
どうしていいのかわかりません」
と相談を受けました。
このような場合は、病気の可能性があり、睡眠外来の受診をお勧めします。
「怠け者みたいに言われて、辛かったと思いますが、病気のためかもしれませんし、あなたが悪いわけではないですよ」
と話したところ、泣き出されてしまいました。
だれにもわかってもらえなくて、ずっとつらい思いをされていたようです。
ナルコレプシーの方は、周りの人から、単なるなまけものと誤解されたり、叱責を受けたり、ときには、退職に追い込まれたりすることがあります。
会社の会議で、寝息を立てて寝込んでしまうという男性の方もいらっしゃいました。
すごく重要な会議で、上司も同席しているのに、毎回寝てしまい、とうとう役職を外されたと話しておられました。
同じような悩みをお持ちの方は、ぜひ、病院を受診してください。
睡眠不足は肥満や高血圧の危険性を高める
睡眠不足の時は、甘いものをたくさん食べたくなったり、太りやすいと感じたことはないでしょうか?
実は、睡眠不足は食欲増進につながることがわかっています。
さらに睡眠不足の状態が続くと、食欲が過剰に増大し、無意識に必要以上のカロリーを摂取してしまいます。
「睡眠不足の人は、ケーキやクッキー、アイスクリームなどのスイーツや、ポテトチップスやナッツなどの塩気の強いもの、パンやパスタなどの炭水化物が食べたくなる、という傾向がみられた」
との報告もあります。
非常に具体的な内容ですね。
うなずいておられる方は多いのではないでしょうか。
私自身も経験あることだけに、無視できない報告です。
睡眠時間が短くなると、食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌が増え、食欲抑制ホルモンであるレプチンの分泌が低下します。
その結果、空腹感や食欲が増してしまうのです。
グレリンは胃から分泌されるホルモンで、脳の食欲中枢を刺激して、食欲を増進させます。
グレリンは、空腹時、体内のエネルギーが不足した時に、エネルギーの補充を促すために分泌されるホルモンですが、睡眠不足になると、このグレリンの分泌量が増加することがわかっています。
一方、レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンです。
脳の満腹中枢を刺激し、食欲を抑えます。
レプチンは、体の栄養状態を脳に伝え、食欲の調節などの役割を担っているのですが、睡眠不足になると、このレプチンの分泌量が減少することがわかっています。
不眠は肥満につながるだけでなく、高血圧、糖尿病への影響も指摘されています。
アメリカシカゴ大学の研究により、睡眠時間が少ないほど高血圧になる割合が高いことがわかっています。
糖尿病の患者さんで睡眠障害のある場合、睡眠の改善が、良好な血糖コントロールにつながることが報告されています。
睡眠は、食事や運動と同様に大切な生活習慣のひとつです。
睡眠の質を上げるために、参考にしていただければと思います。
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